研究企画「監督と興行収入」~スティーブン・スピルバーグ~
「映画は誰のもの?・・・監督のものだ!」
という勝手な定義のもとに、直近10年間(2008年~2018年)において有名監督の制作した映画の興行収入がどんな感じになっているのかを検証していこうと思います。
調べてみて改めてわかったのは、たとえ有名監督と言えども監督する作品全てが利益をもたらしてはいないということです。
何なら名監督と言われている人ほど直近10年間のリターンは割とヤバめな印象です。
とりあえずこの研究のルールは以下4つです。
・プロデュースした映画は含まず、純粋に監督した映画のみを対象とする
・直近10年間(2008年~2018年)で公開~公開終了した映画のみを対象とする
・製作費などのデータが取得出来ない映画は対象外とする
・製作会社に入ってくるお金は興行収入の25%とする(つまりリクープには製作費の4倍の興行収入が必要)
では第1回目として現在「レディ・プレイヤー・ワン」が公開中で、現代を代表する映画監督と言って異論の余地がないであろうスティーブン・スピルバーグを取り上げたいと思います。
公開映画
2008年「インディ・ジョーンズ クリスタルスカルの王国」
2011年「戦火の馬」「タンタンの冒険」
2012年「リンカーン」
2015年「ブリッジ・オブ・スパイ」
2016年「BFG(ビッグ・フレンドリー・ジャイアント)」
製作費合計:631億円
興行収入合計:1,962億円
製作会社の売上(興行収入÷4):490億円
製作会社の損益:-140億円
平均製作費:105億円
平均興行収入:327億円
平均損益率:-22%
平均劇場数:3,128館
1館あたりの平均興行収入:1,045万円
詳しいデータはこちら↓
「E.T.」や「ジョーズ」、「ジュラシックパーク」などメガヒットを飛ばしたスピルバーグですが、直近10年間は映画を公開すれば安定して100億円以上の興行収入を稼ぎ出しはするものの、製作費を鑑みると利益は出せていないようです。
もちろん興行収入が全てではなくて、その後のテレビや配信での放映権料やDVD・ブルーレイの売上も製作会社には入ってくるので一概に損をしているとは言い難いのですが、少なくとも映画館での興行だけで利益を出せてはいないアンハッピーな状態という感じです。
かなり単純な思考になるのですが、このアンハッピーな状態になっている原因はおそらく「スピルバーグ映画の動員力に対して、製作費が高すぎること」だと思います。
どういうことか説明します。
まず「スピルバーグ映画の動員力」とは上記の「1館あたりの平均興行収入」のことを言います。
ここでは「動員力=1館あたり1,045万円」ということになり、この動員力は公開劇場数が増えても変わらないと仮定します。
次にこの「動員力」に「平均劇場数=3,128館」を掛けるとスピルバーグ映画の平均興行収入が算出されます。
スピルバーグ映画の平均興行収入
=1,045万円×3,128館
=327億円
現実的ではない想定ですが、仮にこの数字のみを判断材料として3,128館での公開規模の映画でスピルバーグに製作費を渡すならば、製作費の上限は興行収入の4分の1になるので、
327億円×25%=81億円(製作費の上限)
となるハズです。
しかし現実では3,128館での公開規模に対して渡した製作費は平均で105億円となっています。
これでは収支が合いません。
もし105億円の製作費を渡すならば、配給会社が頑張って公開館数を拡大しなければなりません。いちおう計算すると、
製作費105億円が回収出来る興行収入
=105億円×4
=420億円
420億円の興行収入が稼げる公開館数
=420億円÷1,045万円
=4,020館
つまりは直近のスピルバーグ映画の動員力から逆算して平均で4,020館で公開していれば、計算上は直近10年間トータルではリクープしていた可能性が高いということになります。
けっこうな暴論ではありますが、ざっくり言うと「スピルバーグにそれなりの製作費を渡すんならそれなりの劇場数を用意せんかい!」ということになります。
ちなみに公開館数4,020館というのは「アベンジャーズ インフィニティ・ウォー」並みの公開館数(4,474館)なので1つの映画で公開出来る劇場数の上限近くです。そういう意味ではかなりハードルが高いです。
では「今後どうしていけばハッピーな感じになれるのか?」ということで、公開館数と上限製作費の関係をまとめましたので以下をご覧下さい。
これによると、
製作費が26億円の映画→1,000館体制
製作費が52億円の映画→2,000館体制
製作費が78億円の映画→3,000館体制
製作費が104億円の映画→4,000館体制
で興行に臨めば、スピルバーグ映画の動員力から言ってリクープを達成出来てハッピーな状態になれる可能性が非常に高い、ということになります。
そんなこんなで色々と見てきたわけですが現在公開中の「レディ・プレイヤー・ワン」と「ペンタゴン・ペーパーズ」はこれまでのスピルバーグ映画の動員力から言ってどんな感じになりそうなのかを確認しておきましょう。
まずは「レディ・プレイヤー・ワン」からです。
「レディ・プレイヤー・ワン」
製作費:175億円
リクープする興行収入:700億円
公開館数:4,234館
スピルバーグ映画の動員力を基準とした予想興行収入
=1,045万円×4,234館
=442億円
現在の興行収入:567億円
リクープまで:残り133億円
現在の興行収入を鑑みるに、この映画では直近10年間の平均動員力より多くのお客さんを呼べているようです。
しかし残りの公開日数はまだあるものの、あと133億円を稼げるかどうかは何ともビミョウなところです。
配給会社(ワーナー・ブラザーズ)は頑張ってマックス近くまで劇場数を確保したので、せめて製作費があと50億円安ければもうちょっと楽な興行が出来ていたのではないかと思います。
ただ個人的には内容はなんとも言えない感じだったのでなんとなく納得していたりいなかったり・・・。
では次に「ペンタゴン・ペーパーズ」です。
「ペンタゴン・ペーパーズ」
製作費:50億円
リクープする興行収入:200億円
公開館数:2,851館
スピルバーグ映画の動員力を基準とした予想興行収入
=1,045万円×2,851館
=298億円
現在の興行収入:174億円
リクープまで:残り26億円
こちらは計算上はリクープしそうな感じでしたが、普段に比べて動員力が若干弱めな為にまだリクープ出来ていません。
リクープまで残り少しですが既に公開からかなりの日数(140日)が経過している為、興行でのリクープは厳しいものと思われます。
なので配信・DVD・ブルーレイの売上を含めてのリクープを目指すのが現実的なのではないかと思います。
そしてそれらがあればおそらくトータルではリクープ出来て、スピルバーグに次の映画製作のチャンスが回ってくるハズです。
直近公開された2作品に関してはこんな感じです。
これだけ見てみても映画の興行というのはやっぱり一筋縄には行かないなぁ、ということがしみじみとわかります。
今後この企画は不評を買わない限りはちょくちょくやっていこうと思っていますので、気に入って頂いた方はまた次回の更新をほんのり期待して待って頂ければと思います。
長々とお付き合い頂き、ありがとうございました。それではまた。